私自身が当事者経験を持っており、就職してからもどういう縁か子ども・若者支援に関わる業務をずっと担当しているのですが、その過程で精神科医の斎藤環先生の著作には何度もお世話になっている。
本作も何度目に紐解いたことかわからないけれど、今回もこれまでとは違った示唆があり、勉強になりました
昨年、様々な地域の支援活動のお手伝いをさせていただきながら感じたのは、「ひきこもり」という状態は「当事者あるいはそのご家族の孤独」という状態とかなり密接に結びついているな、ということでした。
当事者を中心に据えると、彼・彼女は家族とも、会社や学校とも、地域社会ともつながっていないことが多いし
また、家族も表面上は毎日仕事をし、買い物をしに街に出ているとしても、当事者との間に抱えている問題を家の外に出すことにためらいを持っているという意味で、孤立している。
そんな孤立した状態からひきこもり状態になってしまう。
孤立ゆえに事態がさらに悪化するという悪循環にはまってしまい、問題が長期化してしまう、というケースがかなり多いように感じます。
いやしかし、この「孤立」というやつ。かなり手ごわい存在です。
若者支援の絡みで福祉領域の方々とお話していると、ひきこもりに限らず、「孤立」という状態は、大きくとらえれば孤独死や自殺、虐待といった事柄にもつながりうるトリガーにもなっているというハナシがたくさん出てきます。
孤立によって困難に直面している人、という意味では若者も大人も、高齢者もみーんな含まれる。
人間は社会的な動物だと言われますが、そんな人間にとって「孤立」というのは、本当に大きな影響を与える要因なんですよね。
話をひきこもりに戻すと、斎藤先生の本著作では、当事者のひきこもり状態を解消するためには、ご家族からのアプローチが非常に重要というお話をされています。
その時の対応の仕方としては、当事者の立場に配慮しながら、傾聴をベースに論理と感情のバランスを取り、地道にコミュニケーションチャネルを開いて太くしていく、というのが初手
当事者に様々な欲望が生まれてきたら、様々な支援機関と連携して社会との接点を作っていく、というが次の手
ということで、最初に家族の中の環境を整えることが重要、というご指摘は本当にその通りだな、と思う反面
支援の現場としては、そんな家族をどのように発見して、どのようにアプローチしていくのか、ということを考えるのが大きな課題になっているのも事実です。
孤立したご家族の社会との接点は何かを把握したうえで、接点になりうる機会を載せて流していく
そこで繋がったら徐々に家族環境を改善するための働きかけを提案していく
当事者およびそのご家族の状況を理解した上で打ち手を構築していくと、当然ながら自治体ごとにその仕組みは異なってくる。そこを行政の方がNPOや地域の支援リソースのプレイヤーと構築していけるかがとても大事です。
今の政策・制度の枠組みだと、孤立によって個人が直面する問題を、年齢層別に対応するという感じになっているけれど、いっそのこと「孤立防止・解消システム」として孤立した家庭をマルっとサポートしていけるようにシステムを変えてしまった方が効果的なのかもしれません。
もっとも、システムをがらりと変えても、そのシステムを活用するのは人なわけで、その人自身に様々なプレイヤーとの調整を図り、ゼロベースで支援の仕組みをデザインしていく能力がないと効果的な支援を実現するのはなかなか難しい。
そういう意味では支援者自身も変わらなければならないというのもあります。
本書は、支援者、特に異動したてで知識ゼロの行政職の方が、まず最初に支援の実務について理解するときなどに、とても参照性の高い一冊なのではないでしょうか。