LINE相談を運用していくための3つの課題

育て上げネットは、厚生労働省の自殺対策の一環として試験的に開始されたSNSによる相談を行う団体として指定をされており、現在進行形で対応を始めています→参照ページ(厚労省)

田中は後発組ながら支援の一端を担うべく、本日研修を受けてきました。一日のうち、午前が座学、午後がケースを用いた模擬対応に参加してきました。

LINEを用いた相談は、LINEを悪用した事件が耳目を集めたことで、実現に拍車がかかった背景があります。

支援の現場での運用例はまだまだ少なく、長野県等でわずかに先行実施事例があるくらいの状況です。ノウハウ蓄積も少なく、対面・電話相談とのコミュニケーションの違いもあり導入はなかなか進んでいません。

一方で、困難に直面した当事者にとってのユーザービリティという観点でいえば、対面相談や電話相談と比較して遥かに便利であり、運用できればこれまでリーチできなかった多くの当事者につながることができるという期待もあります。

そのような状況下での研修だったわけですが、受講してみて、改めてこの手段の運用の難しさを感じました。田中が感じた難しさは大きく分けて以下の3点です。

  1. テキストのみのコミュニケーションという制約の大きさ
  2. 相談者と支援者の感じる時間の流れの違い
  3. 相談者と支援者の数的ギャップの大きさ

まず、1について。

模擬相談を相談者役、支援者役、オブザーバーと3つの立場で体験してみて、これまで自分コミュニケーションがどれだけノンバーバル(非言語的)なものに頼っていたかを痛感しました。

たとえば、相手が次に何を話すか考えている時、対面であれば相手が考えている風であれば待てます。電話であっても「えーとね・・・」の「・・・」の部分で待つべきか二の句を次ぐべきか判断できます。でもSNS、特にLINEの場合は判断すべき情報が無い、という点がとても難しい。

相手はまだ何か言い足そうとしているのか、わからない。少し時間が経ったのでこちらから何かメッセージを送ると、折り悪く向こうが話の続きを投稿する。

何か話の腰を折ってしまって気まずい(というより、先方が話の腰を折られたと感じて気まずいのではないか)と心配になってしまう。そんなぎこちなさがありました。

次に2について。間の悪さという意味では1にも通じるものがありますが、相談者の立場で感じる1分の空白の時間と支援者が感じる長さは異なる、という点。

相談者の立場からすると、メッセージを送って既読がついたらすぐに反応が欲しい。1分も時間が空くと落ち着かない。

でも、支援者の立場からすると、相手の立場にまず立ってみてその上で返事を書くので同じ時間内でこなすタスクが結構多く、1分はすぐに経ってしまう。

この知覚される時間のギャップをうまく埋めないとやり取りがぎくしゃくしてしまう可能性があるなと感じました。

最後に3。これは支援の現場というよりも、支援を行う事業者という観点になると思います。

相談対応をするときは支援者が1人で対応するのは難しく、傍らで助言をする人、緊急対応時のSV等が参加することが重要だと思います。単独対応では知識領域にも限りがあり、コミュニケーションスタイルが合わなかった場合などの変更もできません。

一方で、LINEというSNSの性質上、多くの相談者がアクセスしてくる可能性がある。相談者は当然1人でいいわけですが、対応側は複数人で対応する必要がある。そして、対応側のリソースはかなり限られているわけです。

そうなると、当然回線が混雑して、相談者が何度掛けてもつながらない、という状況になりうる。相談者の徒労感が蓄積されれば連絡するモチベーションも下がるでしょうし、見ている画面を切り替えて掲示板などでのクレームにつながるということもあるかもしれません。

このあたりが模擬相談をやってみて感じた課題でしょうか。

もちろん、着手したばかりなので課題はたくさんあるのが当たり前なので、どうやって解決していくかは今後の運用の中で検討・実行していかなければならないものです。

ただ、LINE相談の良いところは、相談のやり取りがデータの形として残っているので、振り返りによる学習が比較的容易、ということが救いだと思います。

バーバル(言語的)なコミュニケーションでも間の悪さを感じさせないノウハウや、時間間隔ギャップをうめる技法などは、好事例やノウハウの共有によって克服できると思います。同一の相談者の情報が蓄積されればコミュニケーションスタイルの傾向から適切な対応方法も予想できるようになるかもしれません。

運用面の課題については、多業種のコールセンターの好事例を参照すれば、待ち時間のストレス軽減策や、対応スタッフ人数の絞り込み等、導入できる施策があるかもしれません。

いずれにせよ、今後の試行錯誤がなければSNS相談の有用性を見極めることができないですから、まずはやってみる、という姿勢が重要なのではないでしょうか。

どんな技術も、人の生活を豊かにすることも、人を傷つけることもできます。それを分けるのは使う人次第、ということを肝に銘じて活用していくことが重要なのではないでしょうか。

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