【読了】チャヴ 弱者を敵視する社会/Owen Jones

富める者は必要以上に褒めそやされ、社会の梯子を我さきに上ることを奨励され、どれだけのものを持っているかによって区別される。貧困者や失業者は自分を責めるしかない。

「貧困に苦しむ人は怠け者」と考える人は、1986年には国民の19%だったが、2006年には27%に増加した。
「無職の夫婦=貧困に苦しんでいる」と考える人は1986年には国民の半数だったが、2005年には三分の一になった。
収入格差が大きすぎると国民の四分の三が認識している一方で、貧困者の社会保障充実が必要と考える人は全体の三分の一。

ちなみに日本のことではなく、イギリスのことなのだが、状況が驚くほど日本の世論の状況に酷似している。

本書のタイトル「CHAVS(チャブ)」は、「バーバリーを身に着けたティーンエイジャー、ストリートキッズ」であり、揶揄・批判の対象である。これ、日本でいう「ナマポ」に言い換えるとすごくしっくりくる。
本来であれば政策的に支援されるべき人達なのに、無視され、批判され、嘲られている人々である。

サッチャーによる壮大な社会実験の結果、英国の製造業は壊滅、1979年に700万人いた製造業従事者は2009年にはその半分になった。失業と再就職のミスマッチはあまりにも大きく、失業者は絶望してコミュニティは崩壊。

だいたい柔軟な労働力って聞こえはいいけど、実際人が自分の生業を変えるのってすごく勇気と時間がいるよね。
そんな実情を覆う「メリトクラシー(実力主義)」の大義名分。
才能と実力があれば誰でもが成功できるという論調。
裏を返せばここにも頭をもたげる原理主義的自己責任論。

本来であれば支援されるべき対象者は、自己責任論の大義のもとに怠け者のレッテルを貼られる。
やる気の無さも自己責任
貧困や失業状態も自己責任
薬物乱用も若年妊娠も自己責任

本当は政策の失敗が社会問題の肥沃な土壌になっていることを誰も言わない。言えない。
なぜなら政治家もメディアもいまや中流から上流階級に独占されてしまっている。彼らに「現場」がわかるはずもない。
国会議員に占める私立高校出身者は、世の中の4倍だ。
一方で労働者出身の国会議員の割合は、1987年から20年で半減してしまった。かくして、苦難にあえぐ人々は政治やメディアから無視される。

苦しむ人々をかつて連帯させた労働組合は弱体化、解体されており、彼らが状況を打開する術は限られている。できることは自分よりも下の人々に同じことをするぐらい。つまり矛先は移民だ。

ここまで書いていて、やっぱり海の向こうの国の出来事とは思えない。格差社会が叫ばれる一方で、苦しむ人々は怠け者だとレッテルを貼る。
能力と才能があり、結果的に成功できた人は賞賛されるけれど、それ以外の人のチャレンジ、再チャレンジの道は狭い世の中。

僕らができることは何なんだろう。
処方箋の言及に具体性はないけれど、僕らの生活を取り巻く居心地悪さの原因を構造的に見せてくれる点で良書だと思う。おススメ(けっこうボリューミーですが)。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です